量子位相推定
固有位相
固有状態に対応する位相回転
本節では、振幅増幅や QFT と並び重要なサブルーチンである、量子位相推定を紹介します。 量子位相推定は、振幅増幅や QFT とはかなり異質のサブルーチンです。 状態ベクトルから情報を取り出すのではなく、QPU 命令に関する情報を取り出すという特徴があります。 一見わかりづらいですが、動作イメージをつかむためにいくつかの新しい概念を導入します。
固有状態と固有位相
ある QPU 命令の固有状態は 1 つとは限りません。上の固有状態の \(|0\rangle\) と \(|1\rangle\)
を入れ替え、\(|0\rangle\) の位相を π 回転したものも、同じく
「左と右の状態ベクトルはまったく違うじゃないか!」と思うかもしれません。 しかし位相で説明したように、量子コンピュータでは \(|0\rangle\) と \(|1\rangle\) の位相差 (相対位相) のみが意味を持つのでした。 上の左右を見比べてみると、\(|0\rangle\) と \(|1\rangle\) の確率は等しく、またそれぞれの位相差は π であるため、これらは実は同じものです。
このように、見た目は異なるが実は等しい状態ベクトルの組について、その位相差を固有位相と呼びます。 上の固有状態では固有位相は π です。また最初の固有状態には左右で位相差はないので固有位相は 0 です。
QPU 命令 | 固有状態 (適用前) |
固有状態 (適用後) |
固有位相 |
---|---|---|---|
|
|
|
0 |
|
|
π |
すべての QPU 命令はそれぞれ固有の固有状態とそれに対応する固有位相を持ちます。 例として
QPU 命令 | 固有状態 | 固有位相 |
---|---|---|
|
|
0 |
|
π | |
|
|
0 |
|
π | |
|
|
0 |
|
π | |
|
|
0 |
|
Φ |
量子位相推定は何ができるか?
量子位相推定は QPU 命令 (および QPU 命令のセット) の固有位相を取り出すためのサブルーチンです。 なぜ固有位相を取り出す必要があるのか、現時点では分からなくても大丈夫です。 固有状態と付随する固有位相はそれぞれの QPU 命令に固有であり、演算内容を一意的に特徴付ける重要な情報です。 実際にショアの量子因数分解アルゴリズムや、量子機械学習、量子化学計算など非常に多くのアルゴリズムの一部として、量子位相推定は使われます。