超密度符号化

もつれを操作する

もつれた量子ビットをまとめて操作

もつれた量子ビットに 1 個の量子ゲートを適用すると、もつれ状態にあるすべての量子ビットに一度に作用します。 つまり、量子もつれを使えば 1 個の量子ゲートで複数の量子ビットを操作できますもつれ状態にある量子ビットに量子ゲートを適用する場合、一部の量子ビットにのみ選択的に作用させることはできません。必ずすべての量子ビットに作用する点に注意してください。

しかし、もつれた状態へのゲート適用は、単純にすべての量子ビットにそのゲートを適用するのとは異なる動作をします。 ベル回路でもつれさせた量子ビットに、X ゲートを適用させてみましょう。 次の量子回路では、もつれた量子ビットのうちの片方に X ゲートを適用します。 そして、逆ベル回路でもつれをほどき、測定します。

驚くべきことは、X ゲートをビット 1 に作用させたにもかかわらず、測定するとビット 2 が反転していることです。 もつれた量子ビットの最初のビットに X ゲートを適用した結果、両方のビットに作用が働き、結果として最初のビットはそのままでもう一方のビットが反転しています。

このようなパターンは他のゲートでも起こります。 たとえばビット 1 に PHASE(π) ゲートを作用させると、今度はビット 1 のみが 1 に変わりビット 2 はそのままです。

今度はビット 1 に X ゲートと PHASE(π) ゲートの両方を適用するとどうなるでしょうか? 想像通り、もつれに対する X ゲートの作用 (ビット 2 の反転) と PHASE(π) の作用 (ビット 1 の反転) が合わさり、 ビット 1 と 2 の両方が 1 になります。

なぜこのような結果になるか、演算ペアのルールを使って X ゲートの例で量子ビットの変化を確認してみましょう。 X ゲートを適用する前のベル状態は、次のようになっています。

X ゲートをビット 1 に適用すると、\(|0\rangle\) \(|1\rangle\) と \(|2\rangle\) \(|3\rangle\) の演算ペアが X ゲートによってそれぞれ次のように入れ替わります。

X ゲートをビット 1 に適用

次に逆ベル回路でもつれをほどきます。 まず最初の CNOT では、ビット 2 に置いた X ゲートの演算ペアは \(|0\rangle\) \(|2\rangle\) と \(|1\rangle\) \(|3\rangle\) です。 コントロールゲートがビット 1 にあるので、演算ペアのうちビット 1 が立ったものを選ぶと \(|1\rangle\) \(|3\rangle\) のペアが有効になります。 これが X ゲートによって次のように入れ替わります。

CNOT ゲート (コントロールビット 1, ターゲットビット 2) を適用

逆ベル回路の H をビット 1 に適用すると、\(|0\rangle\) \(|1\rangle\) と \(|2\rangle\) \(|3\rangle\) のペアに働き \(|2\rangle\) の確率が 100% になります。

H ゲートをビット 1 に適用

これを測定すると 100% の確率で \(|2\rangle\) (二進数で \(|10\rangle\)) が出ます。 よって、測定するとビット 1 が 0, ビット 2 が 1 となります。

まとめ

もつれ状態にゲートを適用すると、もつれたすべての量子ビットに作用します。 逆ベル回路によってもつれをほどき測定すると、ゲートを作用した結果を取り出すことができます。 このもつれをほどいて測定するシーケンス (逆ベル回路 + 測定) をベル測定と呼びます。

今回はベル状態に X ゲート、PHASE(π)、その両方のゲートを適用しベル測定した場合の結果を見てきました。 ゲートを何も適用しない素のベル状態に加え、これらのゲートを適用した状態を加えた 4 状態もベル状態と呼びます。 4 つのベル状態と、それをベル測定した結果をまとめておきましょう。

適用するゲート ベル測定の結果
なし 00
X 10
X と PHASE(π) 11
PHASE(π) 01

覚えやすくするために、ゲートの別名を導入します。 PHASE(π) ゲートは Z ゲートとしても知られています。 また、X と PHASE(π) ゲート (つまり Z ゲート) の組合わせは Y ゲートとしても知られています。

=
=
=

このことを使うと、上の表は X, Y, Z ゲートで次のように書き直せます。

適用するゲート ベル測定の結果
なし 00
X 10
Y 11
Z 01

次では、この仕組みを使った超密度符号化というかっこいい名前のアルゴリズムを紹介します。